泡盛を愛してやまない台湾人
先日、台湾・台北の赤峰街で開かれた泡盛品評会イベント。
その会場で講師を務めていたのが、旅行会社を立ち上げ、欧米市場を中心に長年“ディープトラベル”を仕掛けてきたEddyさんこと洪東焱さんだった。
沖縄の伝統酒・泡盛をアツく語るその姿に「なぜ旅行業の人がこの場に?」という素朴な疑問が湧き、気づけば話を聞かせてもらうことに。
(イベントの様子はこちらの記事にまとめました。)
このブログのPeopleカテゴリーでは、私なかちが「気になる人」に話を聞かせてもらい、その人の活動や背景を紹介しています。日常の延長で出会った“人”を通して、文化や地域の今を切り取る――そんな位置づけの記事です。肩の力を抜いて、気軽に読んでもらえたら嬉しいです。
ディープトラベルという考え方
──「旅は奥行きごと届けたい。」
Eddyさんは長年、旅行会社を経営しながら“ディープトラベル”と呼ばれる文化や暮らしの深い部分まで触れられる旅を届けてきた。単なる観光地巡りではなく、その土地の文化や歴史、人の営みまで体感できる奥行きのある旅。ガイドブックに載らない小さな町や、人づてにしか辿り着けない体験を旅の中心に据える。
例えば、イタリアではワイナリーとミシュランレストランをめぐる美食ツアー、スリランカでは世界的建築家ジェフリー・バワの建築に宿泊するツアーなど。「その土地の奥行きを知らずに帰るのは、旅の半分しか味わえていない」という彼の言葉に、思わずうん、うんと頷いてしまう。
日本市場への挑戦と、泡盛との出会い
2009年前後、台湾人旅行者の主流はまだパッケージツアー。一方、日本市場には「スルーガイド」という独特の文化があり、言語や人脈がなければ参入しにくい壁があったという。
Eddyさんの会社も当初は欧米市場を中心にしていたが、それでも日本市場を諦めなかった。
京都や大阪、沖縄を巡って祭りや町工場を歩き、人づてでネットワークを築いた3年後、ようやく日本案件の受注が始まる。そして日本観光局や電通との仕事を通じて参加した沖縄の観光プロモーションイベントで、彼は泡盛と出会う。
その豊かな香りと奥行きに衝撃を受け、背景にある歴史や人々の営みに強く惹かれた。この出会いが、Eddyさんの旅の哲学と沖縄文化をつなぐ大きな転機となった。
泡盛の豊かな香りと奥行きに触れた瞬間、Eddyさんの中で何かが変わった。そこに込められた歴史や人々の営みを知ることで、沖縄という土地の見え方そのものが変わっていったのだ。それ以来、沖縄を訪れるたびに酒造をめぐり、職人や地域文化と出会う旅を重ねてきた。「泡盛を知ることは、沖縄の奥行きを知ることだ」。20年近く続くその歩みは、Eddyさんの提唱するディープトラベルの象徴でもある。

(写真:台湾観光貢献賞を受賞するEddyさん。)
Eddyさんの旅行会社についての情報:
勝芳旅行社有限公司 台北分公司
Wawafly international tourism service
▶︎Wawafly 公式インスタグラムページ
▶︎Wawafly 公式フェイスブックページ
台湾と日本をつなぐ取り組み
泡盛との出会いを機に、Eddyさんの活動は台湾と日本を結ぶ方向へ広がった。沖縄では観光客が見落としがちな離島や集落文化に光を当て、地元の人々との交流や食文化体験を組み込んだツアーを構想。酒造訪問や泡盛テイスティングを軸にした企画も生まれた。
さらに台湾の手工芸職人と協力し、沖縄の伝統工芸とクラフト文化を融合させたワークショップ企画や、空手道・地域祭りといった暮らしの文化をスポーツ観光と掛け合わせる試みも進行中。
──「旅は消費ではなく、人や文化をつなぐきっかけになる。」
その言葉通り、Eddyさんの活動は観光業を超え、地域間交流の仕組みづくりへ発展している。

(写真:泡盛品評会にて各種泡盛について説明するEddyさん)
コロナ禍を経て見えた、新しい挑戦
2017年後期から3年間続いたコロナ禍は、台湾の旅行業界にとって大きな転換点だった。海外渡航が止まり、多くの旅行会社が縮小や撤退を余儀なくされた。Eddyさんの会社も欧米向けツアーを一時停止するなど例外ではなかった。それでも彼は、この空白期間を「次の旅の準備」と捉え、沖縄という新しいフィールドの研究に没頭した。
宿泊施設や文化資源を調査し、クラフト体験やスポーツイベントを軸とした“文化深耕型”ツーリズムを模索。さらに台湾の若い職人や起業家が沖縄で挑戦できる仕組みづくりも視野に入れる。泡盛を入り口に広がった活動は、今も地域間交流の形を更新し続けている。

(写真:Eddyさんがガイドする企画の催行時に撮影したもの)
日本の若者へ──「もっと台湾で挑戦してみて」
インタビューの最後、ふと思いついてEddyさんに投げかけた質問がある。
「日本の若い世代に、何か期待していることはありますか?」
少し考えたあと、Eddyさんは穏やかにこう答えた。
「もし興味があるなら、もっと台湾で挑戦してみてほしい。台湾は文化的にも柔軟で、人の距離感も近い。ビジネスのスピード感や試行錯誤の余地も大きいから、若い人にとっては“試す”にはちょうどいい環境なんだよね」
台湾市場の特徴として、失敗に対して比較的寛容であることや、人とのつながりがビジネスチャンスにつながりやすい点を挙げるEddyさん。観光や手工芸、フードカルチャーといった分野だけでなく、ITやクリエイティブ領域でも日本人の感性が活かせる場面が多いと話す。
「沖縄も台湾も、ある意味で“島”という共通点があって、外から来た人を受け入れる土壌がある。そこに飛び込んでみる若い人が増えれば、きっと面白い化学反応が起きるはず」。
彼の言葉は、観光業を超えて文化交流や人材交流の未来像まで見据えているようだった。

(写真:素敵な奥様と─背景が日本の国旗みたいで素敵)
Eddyさんの取り組みは、旅の企画や文化交流にとどまらず、より実務的な領域にも広がっている。
近年は台湾から沖縄へ渡って起業する人のサポートとして、法人設立やビザ申請、創業にまつわる各種手続きや運営支援、さらには原材料や輸出入に関する協力まで。
その活動は不動産分野にも広がり、置産に関する法律相談や物件選び、投資から運用・売却に至るまで、現地ならではの視点を活かしたアドバイスを提供するなど、「人と文化をつなぐ」という軸を中心に、暮らしやビジネスのフィールドでも沖縄を深く知るきっかけをつくり続けている。
これからEddyさんが描き出す“奥行きのある旅”が、どんな景色を見せてくれるのか楽しみだ。その後の数時間も彼は、台湾のことや、私自身も知らなかった“外から見た沖縄”について、たくさんのことを教えてくれた。改めて、この場を借りて──本当にありがとうございました。