沖縄と台湾をまたぐ「文化の人」伊禮武志さん
沖縄と台湾をつなぐ「文化のしかけ人」
伊禮さんのことを、もう何年も前から知っている。伊禮さんのことを一言で表すなら、「文化の仕掛け人」という言葉だ。
伊禮さんは、沖縄と台湾、その二つの島を行き来しながら、人と人をつなぎ、新しい場を生み出してきた人だ。私が台湾に拠点を置いてからも、沖縄と台湾を行き来しながら文化交流の現場に立ち続ける人だ。
音楽の話、原住民の話、そして沖縄の未来の話。
話題の幅は広いのに、根っこにあるのはいつも「人をつなぐこと」。
同じ沖縄出身ということもあり、台湾で会うたび、どこか故郷に近い安心感を覚える。

(写真:真ん中の白いTシャツを着ている方が伊禮さん)
首里に生まれた“音楽少年”
伊禮さんは1973年、首里で生まれた。
祖母の故郷は渡嘉敷島、祖父の故郷ムートゥヤー(元家)は糸満。祖父は1972年に福祉事業として保育園を立ち上げ、地域に根ざした活動を続けていたという。
少年時代の伊禮さんはロックやダンスミュージックに夢中だった。
「中学卒業してすぐ走り屋になって、喫茶店で深夜アルバイトして改造費に全部つぎ込んでたさ(笑)」
と話すときの顔は、今でもどこかやんちゃな雰囲気が残る。
ライブハウスの皿洗いから文化事業へ
音楽そのものよりも、音楽をやっている人たちが好きだったという伊禮さん。
ライブハウスに出入りしながら皿洗いや楽器運び、楽屋準備、音響サポート…。
現場の裏方として身を置き、音楽イベントの世界に自然と足を踏み入れていった。
「ライブしては打ち上げ、そしてまたライブ。収入は全部そこに消えていったね〜(笑)」その経験は、のちに文化事業を仕掛けるときの大切な基盤になっていく。
アメリカで見た景色と、沖縄への視点
2005〜2006年、伊禮さんはロックやダンスミュージックの本場を見にアメリカへ。
マイアミ、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコ――各地でキーマンと出会い、音楽シーンのリアルに触れた。
「挑戦はしたけど、どうやってアメリカに通い続けるのか? その現実も突きつけられた」
この旅が逆に、沖縄の文化を見直すきっかけになったという。
帰国後は拝所を巡ったり、神様の存在を近くに感じる不思議な体験もあった。
それが、今の文化交流の起点になっている。
你好我好有限公司と台湾での活動
伊禮さんが台湾と人をつなぐ活動を本格的に始めるきっかけになったのは、2010年の沖縄音楽祭だ。この音楽祭で、台湾アーティストを沖縄に招致し、大きな文化交流を実現した。
当時、台湾は観光誘致に力を入れており、イベントは想像以上に注目を集め、多くの協力者や新しい出会いが生まれた。
この経験を経て、伊禮さんは台湾との関わりを深め、你好我好有限公司の経理人として活動することになる。同社は文化事業を通じて人と人を多方面につなぐことを目指す台湾拠点の会社であり、伊禮さんの活動の中核にもなっている。

(写真:イベント活動時の写真・伊禮さん提供)
3.11とラジオ番組
2011年からはJFN各局、ラジオで放送される台湾音楽番組「楽楽台湾」をスタート。
偶然にも初回収録日が日本と台湾にとって忘れられない3.11当日。予定していた番組内容は急遽没となり、その後の放送はインタビュー形式に切り替えた。津波直後に現場で応援インタビューを録音したという。
「声で届ける」ということの意味を、伊禮さん自身が強く意識するきっかけになった出来事だ。
原住民文化からの学び
沖縄の国際音楽祭で出会った原住民バンド「TOTEM」。
TOTEM公式フェイスブックページ(外部リンク)
パイワン族やアミ族のメンバーが集まり、伝統と現代を融合させた彼らの音楽は、伊禮さんの価値観を揺さぶった。
原住民の若者が豊年祭の前に自然の中で生活訓練を行うという話を、伊禮さんはよくする。
「沖縄も昔はそうだったはず。今も残そうとしてるけど、まだ足りない部分があるんだよね」
原住民文化を知ることが、沖縄文化を見直すヒントにもなっている。
最新活動:「世界音樂在 A8 ‒ 徐徐島聲 來自沖繩」展
伊礼さんの直近の活動は、桃園市A8藝文中心で開催中の展覧会
「世界音樂在 A8 ‒ 徐徐島聲 來自沖繩」。
この展覧会は、沖縄の音楽・歴史・文化を台湾の人に深く知ってもらうことを目的としたもの。主催は桃園文化局管轄のギャラリー・A8藝文中心で、2ヶ月半もの長期にわたり展示会場を沖縄のために提供してくれている。
しかし、台湾側の行政予算だけでは資金が足りず、沖縄関連団体からも支援を呼びかけたものの補助は得られなかった。
不足分を最終的に負担したのは、伊礼さんの会社「你好我好有限公司」。
完全な民間主導で開催していることが、この展覧会のもうひとつの特徴だ。
-「本展覽承蒙多方關係者的厚意與支持,得以完整呈現沖繩的多元魅力。這是一次絕佳機會,讓您深入認識沖繩的音樂、歷史與文化底蘊。展期為2025年6月7日至8月24日,地點為桃園市A8藝文中心(鄰近MRT長庚醫院站),展區面積達330平方公尺,誠摯邀請各位蒞臨,共度一段感受沖繩魅力的美好時光。」-
展示内容は、琉球王国時代から現代までの文化・歴史変遷。
御座楽やEisa太鼓、神歌や祭祀文化、戦後の音楽復興やA-sign文化など、沖縄の多様な側面を体験できる。
さらに紅型染めや三線、琉球針突といった参加型ワークショップも多数開催され、台湾と沖縄の文化交流を肌で感じられる場になっている。

(写真:イベント会場で参加者に沖縄の歴史や文化を伝える伊禮さん)


(写真:”徐徐島聲來自沖繩”イベント会場展示品)
文化を“事業”として続けるということ
文化交流は、もともとお金持ちがやる事業だと伊禮さんは笑う。
でも、諦めずに続けていると「手伝わせてください」と声がかかる。
桃園でのイベントもそうだが、民間だからこそ動ける柔軟さと、継続する強さが伊禮さんにはある。
なかちから見た伊禮さん
台湾で生活する私から見ても、伊禮さんは沖縄と台湾の両方に深く関わり続ける稀有な存在だ。
文化や音楽の話をしているはずが、気づけば「人と人の交わり」の話になっている。
下ネタを挟みつつも(笑)、地域の未来を真剣に考えるその姿勢に、つい引き込まれてしまう。
そして、飲みの席で見かける伊禮さんといえば
――いつも泡盛をストレートで飲んでいる。
とことん泡盛好きで、時々べろんべろんになっている姿も印象的だ。
そういう“抜け感”があるからこそ、周りの人も安心して集まってくるのかもしれない。
今日もまた、沖縄と台湾をつなぐ新しい出会いの中心には、伊禮さんがいる。